経営者からも後押しされ、各種施策を実施し健康経営を進めているものの成果を感じることができずにもんもんと頭を抱えてしまう。そんな担当者が多くいらっしゃいます。特に、健康経営をはじめて間もない企業で多くみられるようです。前編では、健康経営が推進していかない要因は、健康経営は経営課題解決のための手段であるにも関わらず、経営課題との紐づけが意識されていない取り組みやすい施策ありきでスタートしてしまうことにあるとご説明しました。さらに調査票を利用して、施策が経営課題と紐づいているかの確認方法をご紹介しました。ここからは、健康経営が経営課題と紐づくことの効果、紐づける方法をみていきます。担当者の負担軽減をモットーに企業の健康経営をサポートしている丸山哲史(株式会社リンクアンドコミュニケーション セールスマネージャー キャリアコンサルタント 産業カウンセラー)が解説します。経営者が健康経営の先頭に経営者にとって、健康経営の取り組みの必要性を感じつつも、一方で、「健康」という従業員のプライベートな領域に介入することに違和感をもつ方は多いようです。そのため、企業として健康経営を推進するという意思決定は下しつつも、担当者を設置して「あとは担当者にお任せ」という事例もみられます。担当者からは「うちの社長は、丸投げで従業員に働きかけてくれない…」そんな嘆きも聞こえてきます。しかしながら、経営課題の解決の手段として健康経営を行う場合はどうでしょうか。経営者は常日頃より企業の成長、存続のために経営計画、経営戦略を立案し、組織を導いていきます。健康経営を経営課題と紐づけることにより、従業員のプライベートへの口出しではなく、企業経営の文脈の中でその必要性や意義を従業員に語れるようになります。当社では、「健康経営トップランナーから学ぶ!」として、企業の健康経営推進責任者、担当者の方にお話をお伺いするセミナーを開催していますが、皆さん口をそろえておっしゃるのが、「経営トップからのメッセージの重要性」です。従業員の意識を変え、行動を変えるためには、経営トップからの直接のメッセージが欠かせません。経営者を巻き込んでいくためにも、経営課題と健康経営を紐づけることを始めてみてください。従業員の取り組み姿勢が変わる経営者が経営課題解決の手段として健康経営を従業員に語りかけることで、従業員の当事者意識は高まり、取り組み姿勢は大きく変わります。従業員の健康経営の各施策への取り組みは、ややもすると「やらされ感」を生むことがあります。また一般的な福利厚生のように「参加したい人がやるもの」となってしまい、参加者が偏り、健康無関心層への働きかけの効果が薄くなりがちです。しかしながら、健康経営を経営課題解決の手段として位置づけることで、従業員一丸となって取り組むべきものという優先度の高いものに変わっていきます。企業の成長、存続のために必要な取り組みといわれると、従業員も参加意欲が高まりますよね。健康無関心層にとっても、自らの健康を維持・増進することを業務の一環としてとらえられるようになり、重い腰を上げることにつながります。健康経営推進担当者の負担が軽減されるこれまでみてきたように、健康経営が経営課題と明確に紐づくことで、担当者は経営者、従業員へ働きかけがしやすくなり協力も得やすくなります。担当者として負担がかなり軽減され動きやすくなりますよね。また、目的が明確化されることにより担当者間の連携も進んでいきます。規模の大きな企業では、施策や拠点ごとに複数の担当者が設置され、担当者はそれぞれに施策を推進することがあります。健康経営の目的があいまいなままでは、各担当者は施策実施自体が目的となってしまったり、自分の担当拠点の成果だけを追いがちです。健康課題解決、さらに経営課題解決という目的が明確化され、担当者間で共有されることで拠点間の連携や施策間の連携により取り組みが進化していきます。さらに、従業員の参加率が高まることで現状把握や効果検証も実施しやすくなり、担当者として経営層への成果報告や健康課題のとらえなおしなどといった改善提案も行いやすくなります。本当に必要な取り組みがみえてくる健康経営で解決したい経営課題を設定することで、「わが社」として本当に取り組むべきことがみえてきます。健康経営というと、ポピュレーションアプローチからハイリスクアプローチまで幅広く、また生活習慣病、メンタルヘルス、女性特有の健康関連課題、労働時間の適正化など多種多様な取り組みが行われています。どれも従業員の健康維持・増進に寄与する取り組みです。しかしながら、健康経営に無限の資源を割けるわけではありません。経営課題と紐づけてとらえることで、健康課題に対しての優先度付けができるようになります。【問36】SQ.1健康課題のテーマ 選択肢一覧(出所:経済産業省「令和3年度 健康経営度調査」)世間一般によく実施されている施策であっても、自社の経営課題、健康課題と紐づかないのであれば、それは優先度の低い施策です。あえてやらないということも、健康経営の本来の姿からすると正しい選択だといえます。企業によっては健康経営の担当者がおひとりだけでとても時間が足りないという声をお聞きしますが、優先順位付けによりこのお悩みも解決されますね。デスクワークが多い、立ち仕事が多い、危険作業がある、夜勤勤務があるなど各社それぞれ業務の特徴があり、経営課題はそれに伴ったものであり、優先度の高い健康課題も企業により異なるはずです。総花的な健康経営から脱し、自社にあった健康経営に取り組んでいきましょう。経営課題から健康経営をとらえなおすために「取り組みやすい施策に手当たり次第に手を付けるのではなく、経営課題から健康経営をとらえなおそう。」この意識改革が、担当者だけががんばる健康経営から卒業し、経営者、従業員、担当者が協力して進める「わが社の健康経営」を実現するために必要だということをお伝えしてきました。では、経営課題から健康経営をとらえなおすためにはどうしたらよいのでしょうか。「戦略マップ」を活用しようその方法は各種ありますが、経済産業省が公開しており、業種や規模に関係なく利用できる「戦略マップ」の活用をお勧めします。「戦略マップ」の例(出所:経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン 概要説明資料」)「戦略マップ」は、健康経営で解決したい経営課題から、必要な健康投資効果(目標指標)、健康施策までを一覧で整理できるマップです。担当者として経営者とともに対話を繰り返して作り上げていくものです。例えば、健康経営で解決したい経営課題が「従業員個々人のパフォーマンスの向上」である場合、アブセンティーズムやプレゼンティーイズムの低減が最終的な目標指標となるでしょう。その目標指標達成に向けて、健康診断結果や従業員の健康アンケートなどの事前調査から、食生活や飲酒習慣の改善課題が導かれたとします。それに伴い、健康施策として食事セミナーの実施や生活習慣改善に関する情報提供を行うという流れが整理されます。「健康投資管理会計ガイドライン」(経済産業省)には、「戦略マップ」の作成方法、手順がより詳細に記載されています。合わせて参考になさってください。ただ、「戦略マップ」は経営者や担当者のコミュニケーションツールとして優れたものですが、これをそのまま従業員の皆さんに提示しても、なかなか伝わりにくいものです。「戦略マップ」をもとに、経営者の言葉で経営課題解決の手段として健康経営の意義、重要性を従業員に伝えてもらうことが肝要です。他社事例も参考にしよう令和3年度の調査票から経営上の課題と健康経営のつながりを図示したもののURLを回答【Q18】するようになりました。それに伴い、多くの企業が自社ホームページに「戦略マップ」や各社オリジナルの関連資料をアップしています。健康経営優良法人のなかで、自社に近い業務内容や規模、地域の企業のホームページを確認すると、参考になるのではないでしょうか。健康経営優良法人は経済産業省のサイトから確認できます。加えて、前述した「健康経営トップランナーから学ぶ!」でご講演いただいた株式会社ルネサンス様の取り組みも参考になさってください。健康経営は経営課題解決から社会課題解決手段へここまで、健康経営を経営課題解決の手段としてとらえることの意義、必要性をお伝えしてきました。さらに近年では、企業のESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))活動におけるS=社会へ貢献するための取り組みとしても位置付けられています。ESGは企業投資の新しい価値基準として注目されていますが、健康経営を通じた地域、社会全体の健康に対する貢献が企業活動として評価されているということです。この流れは、令和3年度の調査票にもすでに反映されています。自社従業員を超えた健康増進に関する取り組みとして、「取引先の取り組みの支援【Q23】」、さらに「社会全体の「健康」に対する貢献【Q24】」を問う設問が新たに設定されました。松下幸之助は「企業は社会の公器」という言葉を残しています。企業は、社会が求める仕事を担い、次の時代に相応しい社会そのものをつくっていく役割があるという意味です。自社の健康経営のスコープ(対象)を拡大し、企業活動や商品・サービスを通じた社会全体の健康に寄与できる取り組みを進め、企業価値を向上させていきましょう。※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。