健康経営はコストではなく投資としてとらえるものだとお伝えしてきました。「健康経営が気になったらまず読むコラム」の第2回では、どんな投資効果=メリットがあるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。従業員のパフォーマンスが向上します人こそが企業の競争力の源泉であるといわれるように、企業にとって最も重要な資源は従業員だといえます。その従業員が健康問題を抱え、早退や欠勤、休職が発生すると企業の生産性は下がってしまいますね。一方で健康経営を通じた生活習慣の見直しから健康維持・増進により欠勤などが減れば生産性は向上します。欠勤などの減少による生産性の向上はわかりやすい成果ですが、もうひとつ重要な成果があります。皆さんも、会社を休むほどではないけれどもなんとなく体調が悪い、出社はしたものの集中できなくていつも通りの成果が出せないという経験がありますよね。このような「出勤はしているものの体調が優れず、生産性が低下している状態」をプレゼンティーイズムといいます。このプレゼンティーイズムによる労働生産性の損失は、欠勤などによる損失(アブセンティーイズムといいます)よりも大きいという調査結果(※)が出ています。※経済産業省「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業(ヘルスケアビジネス創出支援等)健康経営評価指標の策定・活用事業」東京大学政策ビジョン研究センターWG、「アウトカム指標による健康経営の可視化」健康経営を通じた生活習慣などの改善は、ちょっとした不調も減少させ、従業員が本来の能力やパフォーマンスを発揮することを助けます。社会的評価と企業イメージの向上企業の社会的評価や企業イメージの向上に取り組む企業が増えています。そこには、商品やサービスが安くてよければ受け入れられるのではなく、消費者や利用者のもとに届くまでの過程や構造に社会的に関心が高まっているという時代の背景があります。生産時に環境への配慮がなされているか、そこで働く人の人権や安全が守られているかなどに厳しい目が向けられていることはニュースなどからも感じられます。問題が発覚することで、不買運動なども起こっています。一方で、企業の取り組みを消費者が評価し、他よりも多少価格が高くても購入する「応援消費」という新たな消費スタイルも生まれてきています。ESGのガバナンスとして健康経営環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったESGという言葉を聞いたことがありますか。ESGは、企業投資の新しい価値基準として注目されています。企業は今後、環境や社会、コーポレートガバナンス(企業統治)への配慮なしには市場で受け入れられません。従業員の健康への配慮もまたコーポレートガバナンス(企業統治)の一環としてとらえられるでしょう。職場環境の改善など健康経営に取り組むことは、ESGの観点からも企業価値の向上、社会的評価につながります。さらに先進的な企業では、健康経営をESG活動におけるS=社会へ貢献するための取り組みとしても位置付け、地域や社会全体の健康にも貢献することで、一層の社会的評価を得ています。健康経営で採用力向上社会的評価や企業イメージが向上することは、採用活動にも有利に働きます。経済産業省が行っている「健康経営優良法人」などの認定を採用のホームページなどに記載することは、求職者へのアピールになるでしょう。しかしながらそういった顕彰制度の認定を受けなくても、求職者が企業訪問や面接で企業を訪れた際に目にするいきいきと健やかに働く従業員の姿は、求人票には表現しきれない魅力として強く印象に残ります。生産年齢人口の減少が明確な日本では、求職者優位の「売り手市場」の傾向が今後も強まっていくことでしょう。求職者から働きたい場所として選ばれ続けるためにも、健康経営の必要性は高まっていきます。さらに、社会的評価の高い企業に勤務することは従業員にとっても誇らしいことであり、既存の従業員の定着にも寄与します。リスクマネジメントとしての機能リスクマネジメントとは、想定されるリスクを管理し、損失を回避もしくは低減させる取り組みをいいます。健康経営には、労働災害発生の予防、事故・不祥事の予防、企業負担の軽減の3つのリスクマネジメントの効果があります。 労働災害発生の防止労働災害は、高所からの墜落・転落事故や挟まれ事故、転倒事故、そして精神障害などさまざまにありますが、その災害原因は作業環境などの「不安全状態(物理的要因)」と「不安全行動(人的要因)」に分類できます。健康経営は、安全でよりよい職場環境への取り組みを重要視しており、また生活習慣の改善により従業員の心身の状態が維持され不注意やケアレスミスも減ることから、不安全状態や不安全行動を減少させる効果が期待されます。事故・不祥事の予防従業員に健康問題が発生すると、プレゼンティーズムやアブゼンティーズムの状態となり生産性が低下するおそれもありますが、一方、損害賠償責任を負担するリスクを抱えることにもなります。もし、過労自殺などが発生した場合、民事訴訟となれば高額の損害賠償を請求されることが少なくありません。また社内では士気の低下、対外的には企業イメージの失墜など甚大な損失を被ります。こういった事故・不祥事を防ぐため、健康経営では労働基準法や労働安全衛生法の遵守に加え、安全配慮義務の履行も推進していきます。企業負担の軽減健康経営は健康保険組合などの保険者と企業とが連携して従業員の健康増進を目指す「コラボヘルス」に寄与します。健康な従業員が増えれば、医療費の削減につながり結果として安定的な保険運営が可能となり、企業と従業員がおさめる保険料もおさえられます。コロナ禍における健康経営の取り組み成果健康経営の取り組みは、新型コロナウイルスの流行下でどのような効果をもたらしたのでしょうか。ある意識調査では、健康経営に取り組む企業の64%で取り組みが新型コロナ流行への対応についてよい影響を及ぼしたと回答しています。さらに、より積極的に健康経営に取り組んでいると想定される健康経営優良法人(経済産業省が行っている顕彰制度)の認定企業では、その割合は75%に上昇します。よい影響があった要因としては、主に「ヘルスリテラシー向上による自発的な健康管理」、「従業員の健康に対する組織だった対応」、「アプリやオンライン面談などの遠隔で施策を実施する体制」が挙げられています。在宅勤務の広まりやステイホームの取り組みなどにより、運動不足に陥りがちになるなど生活習慣の維持が難しいなコロナ禍において自発的な健康管理が行われたことは大きな成果だといえるでしょう。 出所:新型コロナウイルス流行下における健康経営の取り組み状況に関する調査 働く人ももちろんうれしい健康経営健康経営の取り組みよる健康の維持・増進はもちろん従業員の皆さんにとってもうれしいことですよね。また、生産性の向上により、残業が減ることで趣味や家庭での時間が増えたという人が少なくありません。そういった時間が活力を生み、さらに職場での生産性を向上させるという効果もみられます。※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。