2020年6月、経済産業省は企業が健康経営を効果的に実施し、資本市場をはじめとした様々な市場と対話するための枠組みとして「健康投資管理会計ガイドライン」を策定しました。健康投資管理会計ガイドラインではステップ1〜ステップ04まで健康経営を進める上での効果的なステップを定めています。本シリーズではこのステップに沿って、健康経営推進の勘所を紐解いて行きます。今回はステップ1として、ステップ1「健康経営をまだはじめていない企業」様向けに、カロママ プラス 健康経営アンバサダーであり、自らも中小企業診断士/健康経営エキスパートアドバイザーとしても健康経営を推進されている赤田 彩乃氏にお話を伺いました。何気なくのぞいたライバル企業の新卒採用サイトに「健康経営優良法人」の文字とロゴ。組織活性化のため従業員の健康維持・増進に積極的に取り組むとテレビ番組で発言する経営者。さらに、商品やサービスで地域社会の健康増進に貢献する企業。※参照:経済産業省HPこんなふうに健康経営やその取り組みを目にする機会が増えているのではないでしょうか。それもそのはずで、経済産業省が行っている健康経営優良法人認定制度への申請数は毎年増えており、企業の健康経営への関心は高まっています。「健康経営が気になったらまず読むコラム」の第1回では、健康経営の定義から確認していきましょう。 そろそろわが社でも…。でも、そもそも健康経営ってなんだろう?健康経営はコストではなく見返りを期待して行う“投資”まずは定義をおさえよう気になるキーワード「健康経営」。企業が従業員の健康管理を積極的に行うことを意味するのでしょうか。健康経営を推進している経済産業省の定義を確認しましょう。 「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。出所:経済産業省HP企業が従業員の健康管理を行うこととは確かに書かれていますが、「経営的な視点」、「戦略的に実践」の記述が少し漠然としてとらえづらいですね。実はこの定義の後に、健康経営の効果が記述されています。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。出所:経済産業省HP 効果を読むと、イメージがつかみやすくなります。健康投資というのは、従業員の健康の後押しになるような施策を企業が行うことですが、投資という言葉には単に資金を出すのではなく見返りや利益を得ることを期待する意味合いがあります。つまり健康投資により、従業員が健康に、元気になることで、その結果、見返りとして組織の生産性が向上したり組織が活性化することで、売上や利益が伸びるということがここではうたわれています。健康経営は、売上や利益が伸びることを期待しての企業活動なので、新規事業に取り組むときと同じように「経営的な視点」をもって、「戦略的に実践」するのだということですね。 健康管理はコストから投資へこれまでも企業は従業員の健康管理に取り組むよう労働安全衛生法で定められてきましたが、その取り組みはコストとして認識されていました。今後は、企業の発展のための投資として積極的に従業員の健康維持・増進を図っていこうというのが健康経営です。投資という視点から考えると、やるべきこともみえやすくなります。例えば、企業で設備投資を行う場合、とりあえず多機能で最新の機械を入れようという判断はしませんよね。事業の発展という大きな目的に対し設備の導入により何を実現するのか、そのためにどんな機能を持つ機械が必要なのか、回収期間はどの程度なのか。費用対効果を冷静に見極めて判断されるはずです。健康経営の取り組みも同様です。何のために健康経営に取り組むのか、すなわち健康経営で解決したい経営課題は何なのか。そして、それを実現するために効果の高い取り組みは何なのか、効果はどのようにはかるのか。経済産業省の定義にあるように経営的な視点をもって戦略的に取り組みましょう。健康経営もかしこく投資しよう健康経営に関連する施策はたくさんあり、多くの企業がサービス提供を行っています。あれもこれもやらなければならない、やったほうがいいのではと思ってしまいがちです。そんなときは、あらためて健康経営は投資であることを思い出してください。従業員の健康につながりそうなことなら総花的になんでも行うというのは、何かの役に立つだろうととにかく一番いい設備を導入するのと一緒でかしこい投資とはいえませんよね。投資である健康経営を効果的に実行するために、自社の経営課題を認識し、それを解決するための健康課題を見極め、健康施策に取り組んでいきましょう。 健康経営で解決できる課題では、健康経営で解決できる経営課題や健康課題にはどんなものがあるのでしょうか。経済産業省が行っている健康経営度調査では、健康経営で解決したい経営上の課題として5つの項目が挙げられています。これらがすべてではありませんが、健康経営で解決できる代表的な経営課題といえるでしょう。組織や人材にかかわる課題や企業そのものの価値向上に関する課題があげられています。御社にとっても取り組みたい経営課題があるのではないでしょうか。1 従業員のパフォーマンス向上2 組織の活性化3 中長期的な企業価値向上4 企業の社会的責任5 人材定着や採用力向上出所:経済産業省「令和3年度 健康経営度調査」健康課題としては10の項目が挙げられています。1 健康状態にかかわらず全従業員に対する疾病の発生予防2 生活習慣病等の疾病の高リスク者に対する重症化予防3 メンタルヘルス不調等のストレス関連疾患の発生予防・早期発見・対応(職場環境の改善等)4 従業員の生産性低下防止・事故発生予防(肩こり・腰痛等の筋骨格系の症状や、睡眠不足の改善)5 女性特有の健康関連課題への対応、女性の健康保持・増進6 休職後の職場復帰、就業と治療の両立7 労働時間の適正化、ワークライフバランス・生活時間の確保8 従業員間のコミュニケーションの促進9 従業員の感染症予防(防(インフルエンザ等)10 従業員の喫煙率低下出所:経済産業省「令和3年度 健康経営度調査」健康経営を投資ととらえかしこく取り組むには、経営課題の設定や健康課題の抽出が大前提です。 健康経営は日本の課題も解決する健康経営は、企業の経営課題を解決するための手段であるとお伝えしました。加えて、日本の課題を解決する手段でもあります。労働力人口の減少は日本の大きな問題日本では、他の国と比較しても急速に少子高齢化が進行しているということは広く知られています。それに伴い、労働力人口の減少も大きな問題です。労働力の中心とされる15歳以上65歳未満を指す生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じています。総務省「人口推計」によると2020年の総人口は1億2,571万人、生産年齢人口(15歳~64歳)は7,449万人であり、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると総人口は2030年には1億1,913万人、2065年には8,808万人にまで減少、生産年齢人口は2030年には6,875万人、2065年には4,529万人にまで減少すると見込まれています。出所:令和3年版高齢社会白書(内閣府) 健康経営で労働力減少をカバー労働力人口の減少はそのまま日本の経済力の低下につながる大問題です。そのため、国ではこれまでも働く意欲があっても働く環境が整っていなかった高齢者や出産・子育てを背景に就業をあきらめている女性などの離職者が働きやすいよう、また現在働いている人が長く働けるように制度の見直しを進めてきました。定年を60歳から65歳に引き上げるなど高年齢者雇用安定法の改正や働き方改革の推進などです。健康経営もその一環で経済産業省が後押ししています。健康経営を通じて働く人が健康問題を抱える前から生活習慣に気づかうことで、高齢になっても健康を維持し働くことができます。また、健康診断の受診で早期に病気を発見することで、働くことをあきらめずに治療を続けられる可能性が高まります。特に、女性のがん患者数は30歳代では男性の約3.3倍、40歳代では男性の約2.8倍となっていることから、がんは女性の離職の大きな要因の一つです。がん検診受診率向上が女性の就労率向上に寄与すると考えられています。健康経営は働く意欲のある人が健康により長く働き日本の経済力を維持していく手段と大いに期待されています。 会社の課題と日本の課題の解決になる健康経営、ぜひ御社でも取り組んでみませんか。※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。